こんばんは、コンドウキョウコです。
誰に言うともなく口にしてみた。

札幌にいたはずの私がなぜ川崎にいるのか。

そもそもあの時私は死んだはずなのに。

あれは夢だったのだろうか。
いや、そんなハズはないと自問自答しながら日差しの照り返す川崎の駅前を私はひとりで歩いていた。

いるハズの「彼」はいない。
当然だろう、「彼」こそ今でも札幌の街に連れ合いとふたり今日も太陽が沈んでいけばアルコールを求めてなじみの店を梯子するのだろうから。

私はまだ自分の手にあるモノを離せずにいる。
弾丸はもう撃ち果たして一発も残ってやしない。

札幌の街と違って街を歩く人と人との距離が近すぎて、逆に誰も私に気づかない。
理路整然と整えられた街の石畳を不規則な足取りで歩き続けている私。

そんな私の前と後ろを歩く無関係の人々。
何も考えないまま川崎の街を歩き続ける私。

休むこともなく、変わらない速度を保ちつつ、何度目かの京急川崎駅の周辺にたどり着く。
はて、私は誰かを探しているのだろうか。

それとも誰かに追われているのだろうか。

思い出せない。
私が依頼した「彼」のことしか思い出せない。

遠い札幌の街で命を捨てた私が川崎の街を彷徨うように歩いている。
風はぬるく、新札で切られるかのような札幌の風とはまるで違う。
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気が付くと私は私の手に握られている一枚の名刺に気づいた。
強く握りしめすぎたからだろう、名刺は寒さから逃れるように身を丸くした犬のようにくしゃくしゃにされ、ところどころが赤く染まっていた。

手のひらにはいく筋かの名刺で切ったのであろう切り傷がある。
しかし私の手には痛みは伴わず、私の視線は傷ついた自分の手をまるで彫刻品かなにかのように眺めているだけだった。

じんわりと、時々消えそうになる温もりを携えたホッカイロのように痛みが戻ってくる。
そしてその痛みが実感を伴ってきたとき、私は面接の約束をしていたことを思い出したのだった。

ママドールと書かれた名刺の電話番号に電話をかけるために、わたしは電話ボックスを探した。

気づけば陽も暮れようとしている。
急がなくては。

しばらくしてようやく電話ボックスを探し当てた私はダイアルをプッシュする。
しばらくのコールの後に聞こえたのは「彼」とは似ても似つかぬ男の声だった。

「お電話ありがとうございます、ママドールです」
「あの…」
「はい?ママドールですが」
「あの…面接の…」

しばらくの沈黙の後、さっきまでと違う声音で、注意しないと聞こえないほどの小さな声で尋ねてきた。
「キョウコ? コンドウキョウコか?」

懐かしいような、悲しくなるような、不思議な声に私は思い出していた。
あのことを。

私は再び力強く、銃を握りなおした。